バルト三国の中央に位置する森の国ラトビアを2026年6月、旅しました。中世から700年以上も列強に支配されながら、独自の暮らしと文化を紡いできました。ラトビアでサウナ「ピルツ(Pirts)」はリラクゼーションを超えた、人生の折々にかかわる儀式や風習です。ガウヤ国立公園にあるウェルネス施設「ズィエドレヤス(Ziedlejas)」で体験、五感で奥深さに触れました。(1ユーロ≒184円、2026年6月現在)
ラトビア人に訊いた「ピルツとは」

「ピルツ」はラトビア語で「サウナ」の意味です。ただし日本の「サウナ=汗をたっぷりかく」のイメージとは異なるので、ここではあえて「ピルツ」と呼びます。

今回の旅ではピルツについて出会う人ごとに尋ねました。ネイチャーガイドのローランドさんは「サウナは私たちにとって特別なカルチャーです。田舎の家にはほぼ必ずサウナがあり、土曜の夜に家族や友人と楽しむのが伝統的な習わしです」と話しました。

農場「LAUX(ラウクス)」のマダラさんは「一言で説明するのは少し難しいのですが…。サウナは本来、とても神聖で魔法のような体験なんです。母はサウナのプロで、私の30歳の誕生日に6時間もかけて特別な儀式をしてくれたんですよ。最後は星空の下でブランケットにくるまって眠って。すばらしい体験でした」。
「もっと日常的な側面もあります。昔のラトビアの農民にとって、サウナはただの『お風呂』でした」「残念ながらソ連時代の名残で、特に男性の間では『サウナ=お酒を飲む場所』という考えがまだ根強く残っています。ビールやウォッカを持ち込んで騒ぐような。でも私たちは静かなリラクゼーションとしてのサウナを大切にしたいと思っています」。
ウェルネス施設「ズィエドレヤス(Ziedlejas)」


首都リーガから車で1時間、森にあるウェルネス施設「ズィエドレヤス(Ziedlejas、花谷の意)」を訪ねるのは2回目です。


伝統的な「スモーク」、開放的な「ガラス」、あたたかみのある「ウール」と3種類のピルツが用意されています(詳しくは前回の記事)。


今回も前回と同じ「ウール」のセッションを受けました。

黒い木張りの丸い建物に入ります。国家資格であるピルツマスターのイヴェッタさん、ライラ(Laila)さんが笑顔で迎えてくれました。壁は羊毛で覆われていて、いかにも肌によさそうです。ベッドが4台、薪サウナストーブを囲むように並んでいます。

さっそくバスタオルにくるまり、ベッドが4つ並んでいるサウナ室に入りました。水着でもOKですが、何も着ないほうがお勧めです。

心地いい「ウール」ピルツ

オーナーのアンドリスさんが説明します。「ウールのピルツはスモークのサウナのようなコントラストとは異なり、穏やかで心地よさを重視した、筋肉をほぐすリラクゼーションです」。
プロセスは3時間ほどです。「温め」「冷やし」「ととのえる」というサイクルを数回、繰り返します。体に熱を取り込んで温め、水に体を沈めて冷やします。ウィスク(枝やハーブの束)やハチミツ、ソープを使った全身マッサージでととのえます。

今回の参加者は3人です。2人がセッション中、3人目はサウナで温まります。控室に出てもOKです。屋外に漁網のようなネットがゆったりと空中に張られていて、寝転んで休むこともできます。

「温度管理には細心の注意が払われていますが、もし暑すぎると感じた場合は、遠慮なくイヴェッタとライラに伝えてください」。リラックスのためなので我慢は禁物です。
体温め、冷やす

私は「3人目」になり、ベッドに横になりました。汗をかいて老廃物を流します。温度は65℃程度で、心地いいぐらいのぬくもりです。うとうとしていると「OK?」と声をかけられ、一度外に出ました。控室に用意されたブルーベリーをつまみ、ナッツ入り黒パンをかじってから戻ります。合計で40分ほど「温め」のプロセスにかけました。

イヴェッタさんと丸いバスタブまで手をつないで進みます。肩まで3回、沈められます。次は頭まで沈むようにジェスチャーで促されました。1、2、3でドボンと潜りました。「キューッ」。体から音が聞こえたかと思うほど引き締まり、体もキュッと収縮した気がしました。
ととのう以上、とろける

水から出るとサウナに戻り、木の台にうつぶせになりました。頭にウィスクを載せてくれます。全身をサワサワ-ッとウィスクでなでられ、森林の香りに包まれます。使ったウィスクはシラカバなど5種類です。お湯をかけてもらい、ハチミツで2回、マッサージしてもらいました。引き締まった心身が「ととのう」以上に、とろけます。仕上げにソープで洗ってもらって終了です。雨だったり放心状態だったりで、巨大ハンモックへのダイブはしませんでした。

自然のパワーが体幹まで

予定通り3時間ほどのセッションでした。長いようですがあっという間です。お肌もツルツルになりましたが、これはむしろ「おまけ」です。自然のパワーが体幹まで届くような感覚がありました。森の恵みに感謝し、生かすラトビアの知恵に感じ入りました。

ズィエドレヤス(Ziedlejas)
食事のサービスはない。車で5-7分走るとレストラン併設ホテル「アパリュアヅ」(Viesnīca Aparjods Siguldā)」や「ホテル・スィグルダ(Hotel Sigulda)」がある。
住所:Ziedlejas Gaujmaļi, Sigulda, LV-2150 ラトビア
営業時間:10:00-19:00
料金:ピルツのセッションは1人260ユーロ、4人540ユーロ(ピルツマスターの人数によっても料金設定あり)
公式サイト
ラトビア バルト三国の中央に位置する。人口180万人。面積は約6.5万km²で、九州と四国を足したぐらい。国土の半分が森林。中世からドイツやポーランド、スウェーデン、ロシアなどの支配を受け、20世紀には独ソに占領された。1991年にソ連から独立を回復。公用語はラトビア語。通貨はユーロ。
「バルト海の真珠」と呼ばれる首都リーガは13世紀からハンザ同盟に加盟し、バルト海交易の拠点として栄えた。ドイツ商人らの営みを今に伝える街並みは「リーガ歴史地区」として1997年、ユネスコ世界遺産に登録された。北緯57度はモスクワや米アラスカ州南部と同程度。人口は60万人ほどで、バルト三国では最大。
(取材協力:ラトビア投資開発公社<LIAA>観光部、フィンエアー)







