バルト三国の中央に位置する森の国ラトビアを2026年6月、旅しました。中世から700年以上も列強に支配されながら、独自の暮らしと文化を紡いできました。この記事では首都リーガから北西に100キロのヴァルミエラ(Valmiera)地方にある、世界的に評価の高いクラフトビール醸造所を紹介します。(1ユーロ≒184円、2026年6月現在)
貴族の荘園「ヴァルミエラルイジャ」

クラフトビール醸造所「ヴァルミエルムイジャ(Valmiermuiža)」では、ビールソムリエのアルティス(Artis)さんが案内してくれました。

名前はラトビア語で「ヴァルミエラの荘園」を意味します。ドイツ系の公爵が1764年に宮殿を建て、サンクトペテルブルグへ向かう道中の貴族たちをビールでもてなしました。その伝統を現代に復活させようと2006年、醸造所が設立されました。宮殿は戦争で壊されましたが、塔の一部は醸造所の隣に残っています。

ラトビアではドイツに支配される前からビールがあり、結婚式や誕生日に欠かせない「祝杯の飲み物」です。1000以上の民謡(ダイナ)の中に、ビールが祝祭の飲み物として1044回も言及されているそうです。

ビール醸造を見学

醸造にはドイツの技術を取り入れつつも、ラトビア人が好む「モルトの風味豊かで、パンのような香ばしさがあり、少し甘みを感じる」味をめざしました。

ビールは水、モルト、ホップ、酵母の4つからなります。水は敷地内にある深さ120メートルの井戸から汲み上げた水を使用しています。

色や風味を決めるモルト(麦芽)は大麦を主に使用します。お湯にモルトを混ぜ、ホップを入れて煮込み、酵母を投入して発酵させるというプロセスです。麦芽は甘みを最大限に引き出すために、あえて粗く砕きます。糖化の後に使用済みの殻を取り除くためにろ過をして、発酵へ進みます。

6トンのタンク28個に移してから投入する酵母が、自然な甘みをアルコールと炭酸ガスに変えます。「タンクはビールが熟成される場所です。私たちはこの部屋をビールの寝室と呼んでいます」。

仕上げに味を変えてしまう加熱殺菌はせず、ろ過によって沈殿物を取り除きます。「味こそが王様であるという哲学に基づいています。効率を優先するのではなく、ビールが本来持つべき風味を最大限に引き出しています」。

自然の恵み、余さず使い切る

麦汁をろ過する際に出る殻はパン屋がおつまみ用クッキーにし、畜産農家は飼料にし、ビタミンBが豊富なので、スパでも使われるとか。ボトリングの際に充填されなかった中身は捨てず、集めて蒸留し、別の飲み物「burnt beer」として活用しています。

空き瓶は回収して再利用します。アルティスさんは「単にビールをつくるだけでなく、地域とつながり、資源を循環させています」と話しました。
おつまみも洗練

醸造所の2階にあるダイニングで試飲させてもらいました。泡をしっかり立てて少し待ち、ゆっくり注ぎ足すのが注ぎ方のコツです。「泡のおかげで炭酸や香りを逃がしません。色や温度、香り、乾杯の音…五感で楽しんでほしい」。

クラシックなアンバーラガーはさわやかで飲みやすく、口に合いました。「バルティックポーター(黒ビール)」はアルコール度数が7.8%と高く、深い味わいです。首都リーガの人気ラーメン店「Shoyu」のために開発された、ホップの苦味を抑えたビールも香りがよかったです。

おつまみも洗練されていました。塩漬けにしたザンダー(魚)とディルクリームが最高です。魚の淡泊な味に、ビールの風味がよくあいます。

玉ねぎのディップは対照的にコクがありました。ビールを隠し味として加えているそうです。醸造所で説明してくれた使用済み麦芽入りクッキーはサクサクとしていて、ヘルシーです。ラトビア名物のヘンプシード入りチョコレートもビールにぴったりでした。

2026年からはフィンランドの飲料メーカー「Olvi(オルヴィ)」の傘下に入り、輸出にも取り組んでいます。ますます注目が高まりそうです。
Valmiermuiža(ヴァルミエルムイジャ)
住所:Dzirnavu iela 2, Valmiermuiža, Valmieras pagasts, Valmieras novads, LV-4219 ラトビア
営業時間:ショップは10:00-20:00(日は10:00-18:00)、レストラン11:30-14:00(月-水)※金-日は夜営業も
醸造所見学と試飲ツアー:16ユーロ~(4人以上)
公式サイト
宿泊は「Wolmar Hotel」




首都リーガから醸造所へは車で1時間半ほどです。日帰りも可能ですが、ぜひ1泊ぐらいしたいところ。醸造所から車で5分ほどの「Wolmar Hotel Restaurant」が便利です。かわいらしいつくりで、窓からは緑が目にやさしく快適です。




オウムがいて「ハロー!」と返してくれます。

Hotel Wolmar
住所: Tērbatas iela 16A, Valmiera, LV-4201 ラトビア
公式サイト
ラトビア バルト三国の中央に位置する。人口180万人。面積は約6.5万km²で、九州と四国を足したぐらい。国土の半分が森林。中世からドイツやポーランド、スウェーデン、ロシアなどの支配を受け、20世紀には独ソに占領された。1991年にソ連から独立を回復。公用語はラトビア語。通貨はユーロ。
「バルト海の真珠」と呼ばれる首都リーガは13世紀からハンザ同盟に加盟し、バルト海交易の拠点として栄えた。ドイツ商人らの営みを今に伝える街並みは「リーガ歴史地区」として1997年、ユネスコ世界遺産に登録された。北緯57度はモスクワや米アラスカ州南部と同程度。人口は60万人ほどで、バルト三国では最大。
(取材協力:ラトビア投資開発公社<LIAA>観光部、フィンエアー)







