バルト三国の中央に位置する森の国ラトビアを2026年6月、旅しました。中世から700年以上も列強に支配されながら、独自の暮らしと文化を紡いできました。首都リーガだけでなく田舎に足を伸ばせば、ギュッと心をつかまれます。この記事ではエストニアに近い地方で奮闘する、家族経営のオーガニック農園を紹介します。(1ユーロ≒184円、2026年6月現在)
「バルト海のレモン」を育てる

ヴァルミエラ(Valmiera)地方はリーガから北東100キロにあり、車で1時間半ほどかかります。絵に描いたような田園風景のなか、オーガニック農園「Ozolzīles(オゾルズィーレス、どんぐりの意味)」を営むアネテさんが迎えてくれました。

彼女が一家で移り住んだのは9年前です。夫ウギスさんの親類から土地を引き継ぎ、3代目になります。「約15ヘクタールの広さですが、先代まで何にも使っていませんでした。そこで夫が『何か育てよう』と言ったんです」。
そこで選んだのが「クインス」です。ラトビア語では「Cidonijas(ツィドニヤス)」と呼ばれる黄色くて酸っぱい果実で、「バルト海のレモン」として親しまれています。

実るまで3年かかり、ようやく迎えた初めての収穫は800キロでした。「小さいクインスが欲しい」というポーランドの業者が買い手候補でしたが、ポーランドの「小さい」は自分たちのクインスよりずっと大きく、売れませんでした。窮余の策でシロップに。加工に踏み切る第一歩でした。

最初はクインスとルバーブの2種類でしたが、今では7種類に増えました。クインスとアロニア(チョークベリー)のシロップを炭酸水で割った「レモネード」をいただきました。ほどよい酸っぱさです。ちなみに「レモネード」はラトビアを含む東欧では、レモン味に限らず炭酸飲料の全般を意味します。小瓶1本で約2リットルのレモネードが作れます。

味が濃いフリーズドライ


次に挑戦したのがフリーズドライです。夫がマーケットで買って来たイチゴのフリーズドライがきっかけです。「見た目も味もイチゴなのに、とても軽くて乾燥している。不思議な食べ物でした」。日本でもフリーズドライの食品といえば「みそ汁」ぐらい。フルーツは高値で、製菓用トッピングやデコレーションに使う程度かと思います。
EUの支援制度を利用して6年前、小さなフリーズドライ機器を導入しました。いまではクインスをはじめ、15種類以上の野菜や果物を加工しています。


テラスでいただいたのはトマト、コールラビ、玉ねぎ、クインス、バナナ、ブルーベリーなど17種類!いずれも食感は軽いのですが、濃い味わいが後から追いかけてきます。油脂も塩も使っていないヘルシースナックです。


アネテさんは「フリーズドライ加工では、食品に含まれる水分だけを除去するため、栄養分や風味は残ります。味は凝縮され、甘いものはさらに甘く、酸っぱいものはさらに酸っぱく感じられます」と話しました。


クインスは非常に酸味が強いため砂糖を加えて加工しています。お客さんから「砂糖なしで甘い商品が欲しい」と言われ、導入したのがバナナです。ブドウはきれいな緑色で、色が残る品種を選んでいます。メロンは見た目は地味ですが、とても甘くてうれしくなります。イチゴは人気で「ギリシャ産でも試しましたが…。ラトビア産は容器を開けただけでイチゴの香りが広がります」。


年々バージョンアップ


フリーズドライを始めた6年前はラトビアではまだ珍しい技術だったため、加工も手探りでした。ブルーベリーやクランベリーは皮が硬くてそのままでは水分が抜けず、最初は一粒ずつ穴や切れ目を入れていたそうです。


フリーズドライにするのは最初の5-6時間でマイナス40-50度まで凍結したら、真空にして氷の結晶を除去します。最後の9時間は30-40度で加熱し、残った水分を飛ばします。2日半かかるそうです。

機械もバージョンアップ中です。最初にEUの補助制度を利用して買ったポーランド製の機械は小さく、2回も壊れました。知人から「使われていない大型機がある」と聞き、導入したのが現在の主力マシンです。「見に行ったら屋根より高かったのですが、夫は『天井を切れば入る』と言いました」。小型機の約8倍近い生産力を持ち、加工に弾みがつきました。さらにアメリカ製の家庭向け機械が2台、やってきたばかりです。

農地ではクインスに加えてルバーブやラズベリー、メロンなどを育てるほか、販路も広がっています。オンラインショップや地元の店のほか、ラトビア最大のスーパー「Rimi」の地元産品コーナーにも採用されています。

12歳、8歳、7歳の子どもたちも、ギフトボックスへの梱包を手伝うそうです。小さな農園のチャレンジストーリーに元気をもらいました。

Organic farm ”Ozolzīles”
住所:Jaunjānēni, Kocēni Parish, Valmieras pilseta, LV-4220 ラトビア
訪問ツアー:1人7ユーロ(原則15人以上、4月15日-10月15日)
公式サイト
ラトビア バルト三国の中央に位置する。人口180万人。面積は約6.5万km²で、九州と四国を足したぐらい。国土の半分が森林。中世からドイツやポーランド、スウェーデン、ロシアなどの支配を受け、20世紀には独ソに占領された。1991年にソ連から独立を回復。公用語はラトビア語。通貨はユーロ。
「バルト海の真珠」と呼ばれる首都リーガは13世紀からハンザ同盟に加盟し、バルト海交易の拠点として栄えた。ドイツ商人らの営みを今に伝える街並みは「リーガ歴史地区」として1997年、ユネスコ世界遺産に登録された。北緯57度はモスクワや米アラスカ州南部と同程度。人口は60万人ほどで、バルト三国では最大。
(取材協力:ラトビア投資開発公社<LIAA>観光部、フィンエアー)







