バルト3国の中央に位置する森の国ラトビアを2026年6月、旅しました。中世から700年以上も列強に支配されながら、独自の暮らしと文化を紡いできました。首都リーガだけでなく田舎に足を伸ばせば、ギュッと心をつかまれます。この記事では自然と農業、人がつながるライフスタイルを実践する女性2人を紹介します。
イギリスからUターン

ラトビア北部ヴァルミエラ(Valmiera)へは、リーガから車で1時間半ほどかかります。ランチに訪ねたのは草原の中にある農場「Laux(ラウクス)」です。看板はありません。道沿いに畑のような庭のような緑が広がり、中央にはガラス張り温室が見えました。

主宰するのはマダラ(Madara)さんとマルタ(Marta)さんです。彼女たちは12年間、イギリスで暮らしていました。「ラトビアの文化や言葉、この土地が私たちを呼んでいるような気がして」2022年、30代半ばでUターンする決断をしました。

「まずは庭を歩いてください。私たちがやっていることのすべてが詰まっています」。

温室はマダラさんが建てました。窓枠は育った村から集め、木材は森から切り出しました。屋根の一部やドアは叔父の会社から譲り受けたそうです。床のレンガは親族の家の煙突から取り出しました。2022年秋から建て始め、屋根がついたのは2024年です。育苗用ですが、客が望めばイベント会場になります。

冬にはキャンドルを灯し、毛布を用意して食事会を開くそうです。「12月でもブランケットにくるまれば、雪景色の中に温かい時間が流れるんですよ」。もちろん寒いそうですが「皆さん覚悟して来るので」と笑いました。
ガーデン・ウイッチ(庭の魔女)の哲学
マルタさんは「ガーデン・ウィッチ(庭の魔女)」で、庭仕事の大部分を担っています。

「本当にいろいろなことを試しています。耕さない手法も取り入れ、レイズドベッド(立ち上げ花壇)も作りました」。冬にはオークの葉を敷き詰めて土を守り、雑草を手で抜き、カボチャを植え…。自然と対話している気分になるそうです。
自分で摘んでハーブティー

「さあ食事にしましょう」。温室わきに誘われました。黄色のクロスが敷かれたテーブルには大皿が並んでいます。

新じゃがいもは塩ゆでしてフライパンで少し焦げ目をつけ、ディルをたっぷりとのせます。

キュウリはブラックベリーの葉、ニンニク、ディル、塩、水で今朝、漬けたばかりだそうです。葉物はもちろん畑から直送です。昨夜のイベントでもバーガーに挟むレタスが足らなくなり、すぐレタスを収穫して出したそうです。

メインはミートボールです。近くの畜産家によるオーガニックビーフに赤エンドウ豆、オーツ麦、卵、チアシードが入っています。イタリア料理のようで、しっかりラトビア風です。「伝統料理だけではなく、今食べたいものを作ります。カレーにラザニア、アジア風の卵チャーハンもレパートリーです」。卵は実家の鶏が産み、野菜はほとんど庭からです。毎週木曜夕方に開かれる地元マーケットでは、行列ができる人気ぶりです。

「ラトビアの食文化はずっと外から影響を受けてきました。昔のレシピ本を見ると、ドイツ風だったり、スラブ風だったりします。地元の食材を使いながら、新しい料理を作ることは自然なことです」。マダラさんは話しました。

デザートはルバーブのチーズケーキでした。ルバーブのジュレにマスカルポーネ、クリームチーズ、そしてヨーグルトをあわせ、ハーブやレモン皮がトッピングされていました。お腹いっぱいのはずなのに、すんなり入りました。

ハーブティーはDIYです。畑を歩いてハーブに鼻を近づけ、好みの香りの葉っぱを摘みます。レディースマントルやタイム、ミントを小さいブーケのように手にして畑を歩きます。そのまま洗いもせず、カップに入れる幸福感ときたら…。土と人の五感がつながる、何ともぜいたくな時間です。

アイデアが飛び立つ場所「Laux」

農場の名前「Laux」にも思いがこもっています。本来のラトビア語で「畑」は「Lauks」と書きます。ラトビア語のアルファベットには「X」がありませんが、イギリスの経験を形にしたくて、あえて『X』を使ったそうです。
「この名前にはアイデアが飛び立ち、よいことが安全に着地する場所、という意味も込めています。こうして皆さんと一つのテーブルを囲んで、私たちのストーリーを共有できることが何よりの喜びです」。
サステナブルな多角化

最初から「農業だけ」という発想はなかったといいます。「田舎で暮らすなら、一つのことだけでは難しいと思いました」。野菜や花を育て、食事を提供し、イベントを開く。多角化することで持続可能な農場をゼロからつくることに挑戦しました。
「余ったものが別の事業の材料になります」。花はブーケにも、イベント会場の装飾にもなります。とはいえ現在はランチやディナーイベント、ケータリング、マーケット出店など食が8割を占めています。「でも農業がなければ私たちの料理は成り立ちません」。食と農業は別々ではなく、同じ物語の一部です。「秘密の場所でありたい」と話すように、分かってくれる人だけに来てもらい、分かち合いたいと考えています。
彼女たちのストーリーにすっかり魅了され、2時間ほども滞在しました。ハグをして別れましたが名残惜しく、再訪できたらどんなに素敵だろうと思いをめぐらせました。
LAUX
住所:Robežnieki 1, Dikļu pagasts, Valmieras novads, LV-4223 ラトビア
営業時間:要相談
公式Instagram
ラトビア バルト三国の中央に位置する。人口180万人。面積は約6.5万km²で、九州と四国を足したぐらい。国土の半分が森林。中世からドイツやポーランド、スウェーデン、ロシアなどの支配を受け、20世紀には独ソに占領された。1991年にソ連から独立を回復。公用語はラトビア語。通貨はユーロ。
「バルト海の真珠」と呼ばれる首都リーガは13世紀からハンザ同盟に加盟し、バルト海交易の拠点として栄えた。ドイツ商人らの営みを今に伝える街並みは「リーガ歴史地区」として1997年、ユネスコ世界遺産に登録された。北緯57度はモスクワや米アラスカ州南部と同程度。人口は60万人ほどで、バルト三国では最大。
(取材協力:ラトビア投資開発公社<LIAA>観光部、フィンエアー)







