羽田空港からエバー航空BR191便で台北市内中心部に近い松山(ソンシャン)空港に到着したのは午後3時過ぎだった。2024年7月25日、台湾を経由して翌日にオリンピックの開会式が開かれるパリに向かう。松山空港を出て、台湾にいったん「入国」。そこから西に40キロほど離れた桃園国際空港にバスで移動してパリに飛び立つわけだが、23時30分発のパリ行きBR87便までたっぷり8時間ある。
経由地・台北の街をぶらついて、うまい物を食べて飲んで、できれば台湾の人と交流もして、「寄り道、脇道、回り道」を存分に楽しもう。そんなプランを描いていたが、その日に限って思わぬ「誤算」に出くわすことになった。
台風3号、台湾全土で「休業・休校」
ちょうどその日、台風3号(ケーミー)が台湾に襲来したのだ。その影響で台湾全域で公的機関や学校、飲食店のほとんどが終日休業、休校となっていた。
もちろん台風が近づいているのは知っていた。それでも、エバー航空の羽田ー台北便はそれをかいくぐり、ほどんど揺れることも、遅延することもなく着陸した。「台湾全土で終日休業、休校」だとは思いもよらなかったのだ。松山(ソンシャン)空港のコインロッカーにスーツケース二つを預け、身軽になって空港を出た。生温かい重たい風がまとわりついてきたが、暴風というほどでもない。雨もやんでいた。
空港出ると、そこはもう市街地
松山(ソンシャン)空港は台北市街地にあり、パイナップルケーキのブランドで有名な微熱山丘(サニーヒルズ)本店も、バドミントンのワールドツアーやフィギュアスケート四大陸選手権が開かれた台北アリーナも徒歩圏内だと事前リサーチ済みだった。
その方向に歩を進めるが、すぐに様子がおかしいと気づいた。ほとんどの店舗やビルのシャッターは閉まり、人気(ひとけ)が全くないのだ。セブンイレブンやファミリーマートぐらいしか店が開いていない。10分以上歩いて初めてすれ違った学生風の女性に英語で話しかけて、その時初めて「颱風假(台風休み)」を知った。
それでもディープ台湾へ潜入
普段はにぎわっていそうなおしゃれなカフェも、土産物店も閉まっていて、台北本来の活気は感じられなかったのは想定外。ところが、である。私がどうしても行ってみたかった二つの場所は、どちらも「たくましく」営業していた。
一か所目の目的地。それは國際撲克競技協会(国際ポーカー競技協会)=通称 Ace8 だった。松山空港から徒歩約20分。大通りを挟んだ台北アリーナの向かい、コメダ珈琲が入ったビルの3階にそれはある。
日本でもいま爆発的にポーカー愛好者が増えているが、台湾にはそれをしのぐほどのブームが来ている。世界共通ルールのカードゲーム、ポーカー(テキサス・ホールデム)のプレイ歴4年。JOPT(JAPAN OPEN POKER TOUR)などの出場歴がある私には、海外の大会を転戦する野望がある。力試しのために、ポーカーが盛んな台湾で一度はプレイしてみたいと思っていたのだ。
誤解のないように断っておくが、ここはカジノではない。お金を賭けるキャッシュゲームは日本でも台湾でも違法であるため、ポーカーをあくまで「競技」として行ない、テーブルごとに「大会」が開かれるポーカールームだ。囲碁で言う「碁会所」というイメージに近い。
ポーカーは技術6割、運4割のマインド(知的)スポーツとも言われる。ここでは勝負の詳細は差し控えるが、約2時間プレー。台湾のプレーヤーらと心理戦を繰り広げ、互角以上に渡り合えた自信と経験値を得て、念願だった国際ポーカー競技協会を後にした。
厚さ2センチ、大満足のジーパイ
もう一つ、やりたかったこと。それは、本場台湾の「雞排(ジーパイ)」を食すことだった。台湾唐揚げとも、台湾風フライドチキンとも言われるが、唐揚げともフライドチキンとも全然「迫力」が違う。本場のジーパイは手のひら、いや、顔が隠れるほどの大きさなのだ。
台北全土にはジーパイのチェーン店が数え切れないほどあるのだが、事前にキャッチした情報では「厚野鶏排」がいま、人気急上昇中らしい。ただでさえ大きいジーパイだが、店名の「厚野」は「分厚い」の意味。台北アリーナから歩いて5分ほど、南京東路四段の大通りから一本入った小路に厚野鶏排・松山店があった。
ワンルームマンションほどの狭い店内にはイートインスペースがなく、テイクアウト専門。台風3号上陸中でほとんどの飲食店が休業するなか、4〜5人がもう行列を作っていた。電話で予約もできるらしく、バイクで来店してはパッと持ち帰る客もひっきりなし。店構えは簡素だが、かなりの人気店だ。
15分ほど待っていざ注文。手羽先や鶏軟骨などのメニューもあるが、それは上級者向けらしい。定番は店名にもなっている「厚野鶏排」で、それを迷わずオーダー。1枚85台湾ドル(約385円)。鶏むね肉を1枚ずつ丁寧にさばいて特製フライドパウダーに浸して、注文を受けてから1枚ずつ揚げてくれるシステムだ。
揚げたてをその場で頬張ると、皮はパリパリ。中は肉汁があふれるジューシー食感。好食(ハオツー)!感動の味わいだ。厚さは本当に2センチ以上ある。
薬味は胡椒、梅粉、辛味の3種類。今回は無難に胡椒を選んだが、私がジーパイにかじりつくのをスマホで撮影してくれた女性の身振り手振りの説明によると、一番人気は梅粉らしく、一度食べたら2度と戻れないらしい。そして希望すれば、巨大ジーパイをカットしてくれるサービスもあるそうだ。
台風3号上陸で閑散とした台北市街だったが、半日で「ポーカー」&「ジーパイ」の二大ミッションをコンプリート。松山空港から徒歩圏内のディープ台湾を満喫し、大満足で桃園空港へのバスに乗り込んだ。
取材協力・エバー航空
台湾大手のフルサービスエアライン。海運会社を基盤に1989年、台湾初の民間国際航空会社として設立された。2024年3月現在で世界60都市以上に就航する。航空業界の格付け会社スカイトラックス(本社・ロンドン)が認定する「世界の5つ星航空会社」10社のうちの1社で、2024年にも9年連続で選ばれた。日本路線は2024年12月、就航30周年を迎える。2024年3月現在、札幌・仙台・成田・羽田・小松・関空・松山・福岡・沖縄の9空港に就航。2レターコードはBR。英語では「イー・ヴィ・エー(EVA)」と発音される。航空連合スターアライアンスの一員。