【ラトビア】食の出版社が料理教室。「普通の食卓」習って味わう

Pie galda!のキッチンスタジオでⒸPen&Voyage
食の出版社Pie Galda!のキッチンスタジオでⒸPen&Voyage
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バルト海に面した小さな国・ラトビアを2025年12月、旅しました。中世からドイツやスウェーデン、ロシアなどの支配を受けながらも、紡がれた文化や暮らしを取材しました。この記事では「これぞラトビアの味」が学べる料理教室「テイスト・ラトビア」を紹介します。食の出版社「Pie Galda!(ピエ・ガルダ!)」の洗練されたスタジオで、「普通の食卓」の力強さを実感しました。

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レシピ生むキッチンスタジオ

Pie Galda!のキッチンスタジオ。撮影現場にもなるⒸPen&Voyage
Pie Galda!のキッチンスタジオ。撮影現場にもなるⒸPen&Voyage

Pie Galda!(ピエ・ガルダ!)は、ラトビア語で「At the Table!」を意味する食の出版社で、3人の女性が立ち上げました。発刊当初は月刊、2015年から隔月刊で同名の料理雑誌を出版するほか、公式サイトやSNSでも発信しています。

首都リーガにあるスタジオは2024年から著者やシェフによる料理教室(マスタークラス)を開くなど、ワークショップにも力を入れています。私が参加したのは観光客向けの「Taste Latvia(テイスト・ラトビア)」です。

ガラス張りのスタジオに入りました。美しくコーディネートされたテーブルの正面にオープンキッチンがあり、棚にはオーナメントやキッチン道具が並んでいます。雑誌の撮影やテレビ番組の収録もしている洗練された空間です。「私もこういう場所が欲しい」とつぶやきながらシャッターを切りました。

講師は「ピエ・ガルダ!」プロジェクトマネジャーのリーヴァ・カールクレ=ウプニェツェ(Līva Kārkle-Upeniece)さんです。彼女は看護を学んだあとカフェで働き、料理の世界に入ったそうです。最新刊のフードスタイリングは彼女が手がけました。パラパラとめくりましたがレイアウトや大胆な写真づかいが印象的で、人気のほどがうかがえます。

Pie Galda!の2025年12月-2026年1月号ⒸPen&Voyage
Pie Galda!の2025年12月-2026年1月号ⒸPen&Voyage
最新刊は「5つの材料だけで作る料理」。105のレシピ105が掲載されているⒸPen&Voyage
最新刊は「5つの材料だけで作る料理」。105のレシピが掲載されているⒸPen&Voyage

基本の「味の軸」7つ

キッチンに用意されたラトビアを代表する「7つの味覚」ⒸPen&Voyage
キッチンに用意されたラトビアを代表する「7つの味覚」ⒸPen&Voyage

キッチンカウンターにはラトビアの「味の軸」で、日常の食卓に欠かせない食材が並んでいました。

  • はちみつ/ビーブレッド:甘み・発酵
  • ホースラディッシュ:薬味
  • キャラウェイシード:薬味
  • マルメロ(クインス、セイヨウカリン):酸味・甘み
  • ザワークラウト/ブライン(発酵ジュース):発酵
  • サワークリーム:酸味
  • ディル:香草

これらの薬味や乳製品、酸味・甘味、発酵のコンビネーションがラトビアの味をつくります。それぞれ試食しました。

ホースラディッシュはローストビーフに使う印象ですが、ラトビアではスープやサラダにも添えるのだとか。「ワサビと似ていますが、同じではありません」。ザワークラウトの発酵液は中世のラトビアではビタミンCの供給源だったそうです。「いまは毎朝飲むわけではないですが、二日酔いや体が重いときに飲みます」とのことでした。ディルは魚料理に使うイメージですが「ラトビア人は何にでも入れます」とリーヴァさんは笑いました。

「ラトビア人はなんにでもディルを入れます」ⒸPen&Voyage
プロジェクトマネジャーのリーヴァさんⒸPen&Voyage

一緒にデザートづくり

黒パンのトライフルをつくる。まず黒パンを乾煎りⒸPen&Voyage
黒パンのトライフルをつくる。まず黒パンを乾煎りⒸPen&Voyage
ベリーのジャムを広げるⒸPen&Voyage
ベリーのジャムを広げるⒸPen&Voyage

「味の軸」を習ったら、デザートの実演と実習です。ラトビア人にとって基本中の基本・黒パンはデザートにもなります。「残った黒パンがあれば砂糖と少量の水で煮て、ドライフルーツを加えてスープのようにして、クリームと一緒に食べます。温かいものも、冷やしたものもあります」。今回は黒パンとクリームを重ねたトライフル仕立ての「Rupjmaizes Kārtojums(ルプヤマイゼス・カールトイウムス)」です。

キッチンではパン粉状の黒パンを乾煎りしてジャムと混ぜ、ガラス容器にホイップしたクリームと交互に重ねていきました。仕上げにベリーを散らし、冷蔵庫で冷やせば完成です。私も少し手伝いました。簡単で、食材をムダにしない日常のデザートというのが分かります。

ホイップクリームを広げるⒸPen&Voyage
ホイップクリームを広げるⒸPen&Voyage

伝統的なミートパイ(ピラーギ/ベーコン入りのパン)

お祝いに欠かせないベーコンパン「ピーラギ (pīrāgi)」ⒸPen&Voyage
お祝いに欠かせないベーコンパン「ピーラギ (pīrāgi)」ⒸPen&Voyage

実習を終えてテーブルにつきました。木製プレートでサーブされたのは、半月型のパン「ピラーギ(Pīrāgi)」です。「まずはどんなパーティーでも最初に出す、私たちの伝統的なミートパイをどうぞ。これでパーティーが始まる、という感じになるんですよ。必ず温かいうちに召し上がってください」。

中にはベーコンと玉ねぎが入り、温かくておいしい!パイというより、いかにも家庭で作った「パン」の味がしました。これは日本でも再現できそうです。「今日はたくさん食べますから、心の準備をしておいてください」。量をしっかり出す「おもてなし」文化がラトビアにはあると感じました。

左からレッドカラント、マルメロを使ったオーガニック・レモネード風ノンアルコール飲料。映画『Flow』のコラボレーションⒸPen&Voyage
左からクランベリー、レッドカラント、マルメロを使ったノンアルコール飲料。右端は映画『Flow』のコラボレーションⒸPen&Voyage
ルバーブの炭酸飲料ⒸPen&Voyage
ルバーブの炭酸飲料ⒸPen&Voyage

夏至祭と自家製チーズ

夏至のチーズプレートⒸPen&Voyage
夏至のチーズプレートにはリンデン(菩提樹)のはちみつを添えてⒸPen&Voyage

次に運ばれたのはキャラウェイシードの入ったチーズプレートです。「このチーズは夏至祭のころ一番よく作られます。一年で一番昼が長くて夜が短い日です。お母さんやおばあちゃんがチーズを作って、夜になると全部並べて『これはイェヴァが作った』『これは私の母ダツァが作った』ってラベルを貼るんです。みんなで味見して、その年で一番のチーズを決めます。チーズコンテストですね」。お勧め通りハチミツと一緒に食べると、いくらでも食べてしまいそうになりました。ディル入りバターもバター好きにはたまりません。

ディル入りバターⒸPen&Voyage
ディル入りバターを塗ったライ麦パンⒸPen&Voyage

ヤツメウナギと燻製料理

ホースラディッシュ入りクリームをのせたヤツメウナギⒸPen&Voyage
ホースラディッシュ入りクリームをのせたヤツメウナギⒸPen&Voyage
サワーブレッドにのせたスモークフィッシュⒸPen&Voyage
サワーブレッドにのせたスモークフィッシュⒸPen&Voyage

ヤツメウナギにはたっぷりとホースラディッシュがのっていました。「ヤツメウナギは焼いてから、少しブラックティー(紅茶)で煮ます。そうするとゼラチンみたいな状態になって保存できます」。クリームともよくあいます。

豚・鶏・魚の燻製もシンプルで絶品でした。「私たちは燻製が大好きで、魚も肉も、チーズも燻製にします」。

スクロールできます
軽く塩漬けしたきゅうりとスモークポークⒸPen&Voyage
軽く塩漬けしたきゅうりとスモークポークⒸPen&Voyage
あっさり風味豊かなスモークチキンⒸPen&Voyage
風味豊かなスモークチキンⒸPen&Voyage
少しずつ皿にのせていただきますⒸPen&Voyage
少しずつ皿にのせていただきますⒸPen&Voyage

ソレル(スイバ)のスープ

卵添えソレル(スイバ)のスープⒸPen&Voyage
卵入りソレル(スイバ)のスープⒸPen&Voyage

ソレルは日本語で「スイバ(酸い葉)」と呼ばれる青菜で、ラトビアではスープに使われます。

「豚足を2時間くらい、野菜と一緒に煮ます。リーキやハーブ、玉ねぎ、人参など、家にある野菜でいいんです。それから大麦を入れるとスープがなめらかになります。スイバは長く煮ると香りがなくなるので最後に入れます」。

その名の通り少し酸味があって、さっぱりいただけました。「家庭料理はどこの国もおいしい」という思いをいっそう強くしました。

灰色エンドウ豆とベーコン

ゆでただけの灰色エンドウ豆ⒸPen&Voyage
ゆでただけの灰色エンドウ豆ⒸPen&Voyage
灰色エンドウ豆とベーコンⒸPen&Voyage
灰色エンドウ豆とベーコンⒸPen&Voyage

灰色エンドウ豆もラトビアの食卓に欠かせません。「Pelēkie zirņi ar speķi(ペレーキエ・ズィルニ・アル・スペキ、灰色エンドウ豆とベーコン)」はシンプルなのに、ベーコンのうまみが効いていくらでも食べたくなります。豆に混ぜていただきました。簡単そうなのでレシピを聞きました。「豆は一晩、水に浸してからやわらかくなるまでゆでます。あとは玉ねぎとベーコンのみじん切りを炒めるだけ」。スナックとして、サワークリームをのせて食べることもあるそうです。

黒パンのトライフル

仕上げにベリーと黒パン粉を散らしたトライフルⒸPen&Voyage
仕上げにベリーと黒パン粉を散らしたトライフルⒸPen&Voyage

「甘いもののための部屋を空けておかないといけない、という冗談があります。食べすぎてはいけない、必ずデザートのための余地を残しておく、という意味です」。別腹はどこの文化でも共通ですね。つくるプロセスからかかわったデザートは格別です。しっとりザクザクした食感で、乳製品が豊富な国だけあってクリームがおいしい!残ったパンのリサイクルおやつではありますが、これは上等です。色合いのコントラストもあり、よくできたデザートです。

「テイスト・ラトビア」はグループ対象

ザワークラウトも欠かせないⒸPen&Voyage
ザワークラウトも欠かせないⒸPen&Voyage
バターとディルで和えた新じゃが、サワークリームとハーブ入りカッテージチーズ、季節の地魚料理ⒸPen&Voyage
バターとディルで和えた新じゃが、サワークリームとハーブ入りカッテージチーズ、季節の地魚料理ⒸPen&Voyage

料理教室としてもよく練られ、考えられた構成です。ただつくるだけ、食べるだけではなく味覚の紹介あり、実習あり、味もバラエティーに富んでいて多くの学びがあり、おもてなしの心を感じました。「アラブの人向けにはハラールに対応するため、乳製品も全て確認しました。豚肉やベーコンは出せないので、代わりに魚料理を増やしました」。一生懸命に準備する姿が目に浮かびました。

テイスト・ラトビアのメニューⒸPen&Voyage
テイスト・ラトビアのメニューⒸPen&Voyage

ラトビアの人向けの教室(マスタークラス)は個人でも申し込めますが、「テイスト・ラトビア」は2025年12月現在、16人以上の団体のみになります。「日本の人たちが来てくれたら、すごくいいですね」と歓迎してくれました。(取材協力:ラトビア投資開発公社<LIAA>観光部LOTポーランド航空)

ピエ・ガルダ!マスタークラス「テイスト・ラトビア」(Pie Galda!Taste Latvia)

住所:Nometņu iela 18, Zemgales priekšpilsēta, Rīga, LV-1048 ラトビア
人数:16人から
参加費:65ユーロ
公式サイト

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