バルト海に面した小さな国・ラトビアを2025年12月、旅しました。中世からドイツやスウェーデン、ロシアなどの支配を受け、20世紀には独ソに占領されながらもたくましく紡がれた文化や暮らしを取材しました。この記事では、ラトビアの人々になくてはならない黒パン(ライ麦パン)について紹介します。主食なのはもちろん、おつまみにもおやつにも、飲み物にもなるのは日本のコメに似ていて、食卓の中心にある存在です。ラトビアのアイデンティティを感じました。
黒パンとは

「黒パン」は主にライ麦でつくられたパンを指し、英語では「ライブレッド(rye bread)」、ラトビア語では「ルッピマイゼ(rupjmaize )」です。小麦が育たないロシアや東欧、ドイツなどで食べられています。グルテンが少ないので小麦のような「ふんわり」「もっちり」ではなく「ずっしり」「みっちり」した食感です。酸味があり、地域や文化によって味わいは異なります。

日本で売っている店は限られ、町のパン屋ではまず見かけません。茶色っぽいパンはありますが、多くは小麦を精製しない「全粒粉」のパンです。
手づくりパン屋を訪ねる

ラトビアの古都ツェースィス(Cēsis)で、パン屋さんを訪ねました。「ツェース・マイゼ(Cēsu Maize)」で、ツェースィスのパンという意味です。住宅の鉄の扉を開けて中に入り、奥まった一角が店です。向かいには子ども用バイクが置いてあり「お邪魔します」と言いたくなる生活感です。「ツェース・マイゼ」も元々は住居で、ネコと女性が住んでいたそうです。

エプロン姿の女性スタッフが迎えてくれました。ラトビア産のスペルト小麦粉、ライ麦、全粒大麦粉、そば粉、全粒オートミールなどを使用しています。石臼で挽いた粉に水を加え、自然発酵させた種「サワードウ(パン種)」を使って焼き上げます。添加剤は使わずにパンづくりをしているそうです。「サワードウづくりから始め、生地のやわらかさは天候や湿度によって変えます。100%手づくりなんです」。パンは6種類です。


①スペルト小麦の全粒粉パン:ひまわりの種、かぼちゃの種、アマニ、キャラウェイ入り
② 全粒粉パン:ドライトマト、ブラックオリーブ入り
③粗挽き大麦パン:キャラウェイ、各種シード入り
④ グリーン(未焙煎)そば粉パン
⑤ 甘いスペルト小麦パン:ドライアプリコット、レーズン、アーモンド入り
⑥ 全粒オーツパン

「スペルト小麦」は古代小麦の一種です。このうち全粒粉パン以外の5種類を試食しました。生地の酸っぱさに雑穀やシードのプチプチした食感が入ります。いかにも体によさそうです。そば粉は独特の風味です。アーモンド、レーズン、アプリコットが入った少し甘いパンが酸味ともあい、気に入りました。
「ツェース・マイゼ」は首都リーガの百貨店「ストックマン(Stockmann)」で買えるほか、ラトビアの産直グループでも販売しているそうです。「日持ちは3~4日です。4日目になると熟成が進んで消化しやすくなる」と勧められました。

ツェース・マイゼ(Cēsu Maize)
住所:Rīgas iela 18, Cēsis, Cēsu pilsēta, Cēsu novads, LV-4101 ラトビア
営業時間:10:00-18:00(月~金)、10:00-16:00(土)、10:00-15:00(日)
公式サイト
レストランで出会った「黒パンのパフェ」

黒パンとクリームを交互にのせたデザートは、首都リーガの料理教室で作り方を習いました。デザートの名前はラトビア語で「ルッピマイゼス・カールトゥアユムス(Rupjmaizes kartojums)」で、「重ねた黒パン」との意味です。

立ち寄ったホテル「アパリュアヅ(Aparjods)」のレストランでも注文してみました。分かりやすいように「ラトビア風黒パンのトライフル(Latvian rye bread trifle)とメニューにありました。やってきたのはパフェのようなデザートです。しっかり底までしっとりした黒パンが詰まっていました。ちょっとティラミスのようです。混ぜるとカリカリ、しっとりの二重奏が楽しめました。
スィグルダのホテル「アパリュアヅ」(Viesnīca Aparjods Siguldā)

住所:4RRV+GP スィグルダ, ラトビア Siguldas pilsēta, Sigulda Municipality
営業時間:12:00-23:00
公式サイト
つまみにも、飲み物にも

揚げたガーリック味黒パン「キプルアク・グラウズディニ(ķiploku grauzdiņi)」は居酒屋メニューの定番です。発酵させてノンアルコール飲料「クワス」にもなります。

黒パンはラトビアの暮らしに欠かせませんが、「ちょっと食べ慣れない」という方でもご心配なく。他の種類のパンも、ホテルやレストランでは当たり前にあります。
ツェースィス地域のPR担当スィンティヤ・ワナガ(Sintija Vanaga)さんは「仕事で台湾に行ったときは、ライ麦パンを持って行きました」と話していました。「ライ麦パンはラトビア人の力」との言い回しがあるそうで、その言葉通りだなと実感しました。

ツェースィス地域で取材したスポット
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ラトビア バルト三国の中央に位置する。人口180万人。面積は約6.5万km²で、九州と四国を足したぐらい。国土の半分が森林。中世からドイツやポーランド、スウェーデン、ロシアなどの支配を受け、20世紀には独ソに占領された。1991年にソ連から独立を回復。公用語はラトビア語。通貨はユーロ。
「バルト海の真珠」と呼ばれる首都リーガは13世紀からハンザ同盟に加盟し、バルト海交易の拠点として栄えた。ドイツ商人らの営みを今に伝える街並みは「リーガ歴史地区」として1997年、ユネスコ世界遺産に登録された。北緯57度はモスクワや米アラスカ州南部と同程度。人口は60万人ほどで、バルト三国では最大。







