パリ・シャルルドゴール空港(CDG)はその日、オリンピック観戦を楽しんだ観光客の出国ラッシュでごった返していた。パリ五輪の閉会式を2日後に控えた2024年8月9日。私自身も2週間の取材を終えて台北経由で帰国した。よりによってそんな大混雑の日のパリで、旅の基本動作を忘れるうっかりミスをしたが、それを幸運にも「挽回」。最終的にはパリ五輪の思い出を心に刻む忘れがたいフライトを体験できた。エバー航空パリ・シャルルドゴール発、台北・桃園(TPE)行きBR88便エコノミークラスをレポートする。
空港へ向かう電車から激混み
パリ市内から乗りこんだシャルルドゴール空港行きの電車(RER B線)の中からただならぬ雰囲気だった。その路線の電車は普段からあまり治安が良くない。バスやタクシーを利用する人が多いと聞いていたが、その日は電車も超満員。東京メトロ銀座線かと思うほどのすし詰め状態だった。スリ被害に遭わないようにと、貴重品をラグビーボールのように前で抱えた。見知らぬ人と肩をぶつけあいながら約1時間、ずっと立ちながら車窓をぼーっと眺めていた。
Aéroport Charles de Gaulle 1駅に着いた。無料のシャトルに乗り換え、エバー航空のチェックインカウンターがあるターミナル1へ移動する。その時、あることに気がついた。オンラインチェックインを忘れていたのだ。
痛恨のミスである。パリから台北へ飛ぶBR88便は13時間50分の長時間フライト。エバー航空ではエコノミークラスでも、出発時刻の48時間前から1時間前までウェブかアプリでオンラインチェックインをすれば無料で座席指定ができるのだが、これを完全に失念していたのだ。
48時間前から座席指定可能なのに
エバー航空に限らず、旅慣れた人なら、ウェブかアプリで希望する座席をあらかじめ指定するのが基本動作だろう。長時間フライトならなおさらだ。座席によって機内の快適さが全く違うからだ。
通路側、窓側の好みは人によって分かれるが、両脇に人がいる身動きがとりづらい真ん中の座席はなるべくなら避けたい。私の場合、トイレが近いこともあって本来なら通路側がマスト。隣の人がぐっすり眠っている時に、何度も起こしてはまたいで横切るのは気が引ける。
ただ、気づいた時にはもう遅かった。チェックインカウンターで尋ねると案の定、係員から告げられた。「残念ながら、窓側、通路側はすべて埋まっています。中央列真ん中の席しかあいていません」
あきらめ一転、快適な通路側座席へ
どうせ、機内は混んでいるのだからと、搭乗の最終案内でゲートを通過し、最後の乗客として機内に乗り込んだ。人、人、人のエコノミークラスのブロックに自分の座るべき真ん中の座席がぽつんと開いていた。
両隣は夫婦らしき外国人がすでに真ん中の席を空けて座っていて私を見るなり、「ああ、来ちゃったか」という表情。その視線が痛い。こっちは笑うしかない。座席上の棚を開けるとパンパンで、自分のバックパックが入るスペースはもうなかった。
離陸後、ベテランらしき台湾人キャビンアテンダント(CA)と目が合った。そして奇跡が起きた。
数列前に並びできれいにあいている席があるではないか。CAに丁重に英語で尋ねた。
”Just in case I have to ask, is it possible to sit in that seat?”(万が一でお尋ねするのですが、あの席に座れませんか?)
すると、“Let me check”(確認するわね)と言って一瞬消えたCAは戻ってくるなり、笑顔で私にウインクして小声で言った。「どうぞ」。足元が広く、隣には誰もいないその通路側の席をそっと案内してくれた。
オンラインチェックインをしなかったにもかかわらず、結果的に快適な座席に座ることができたのは本当にラッキーだった。
卓球選手が同乗、機長が健闘たたえるスピーチ
ドアがクローズしてほどなくして、もう一つ、テンションが上がる出来事があった。
機長が台湾語でスピーチを始めた。すると、機内に大きな歓声と拍手が沸いた。BR88便にはパリ五輪卓球男子団体で8強入り(5位入賞)したチャイニーズタイペイ選手団の林昀儒、荘智淵、高承睿選手らが搭乗していた。
その健闘をたたえたスピーチだったそうで、機内は離陸前から温かい雰囲気に包まれた。ちなみにチャイニーズタイペイの4強入りを阻んだのは張本智和、戸上隼輔、篠塚大登の3名から成る銅メダルの日本男子だった。
機長のスピーチは台湾語のみ。これが英語でもされたらもっとよかったのにとは思ったが、私に足元の広い席を融通してくれたさきほどのCAに尋ねると、要旨を英訳してくれた。いつも感じることだが、エバー航空のCAは本当にコミュニケーション能力に長けていて、日本人乗客も決して置き去りにしない。
機内食は安定のクオリティ
離陸後、着陸前に2度サーブされる機内食はいずれもアツアツでとてもおいしかった。パリへ向かう羽田発BR87便搭乗記にも書いたが、欧州ー台北便はロシア上空の飛行を回避するため、現在は14時間近いロングフライトでは機内食の間隔が12時間近く開くのが難点。それでも、機体後方のギャレーに行けば、サンドイッチやチーズクラッカー、せんべいなどの軽食をいつでも自由に座席に持ち帰ることができる。紙コップの水、お茶、ジュースも常時、提供されていて定期的に水分補給もできる。
13時間50分、台北に「帰ってきた」感覚
欧州から台湾経由で帰国するのは今年で3度目。桃園空港に着陸するころにはもう「帰ってきた」感覚になるから不思議だ。今回は隣に人がいない座席で熟睡できたこともあって、13時間50分のロングフライトも全く苦痛ではなかった。パリ・オリンピックの祝祭感、余韻に包まれた機内で、うまい機内食にも大満足。空港に到着すると、そこにはパリ五輪で健闘したチャイニーズタイペイの卓球選手を迎える報道陣や温かい歓迎が待っていた。
エバー航空台北=パリは毎日直行便
便名 | スケジュール | 運航 | 所要時間 |
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BR87 | 台北(TPE)23:30⇒パリ(CDG)07:55(+1日) | 毎日 | 14h25m |
BR88 | パリ(CDG)11:20⇒台北(TPE)07:10(+1日) | 毎日 | 13h50m |
取材協力・エバー航空
台湾大手のフルサービスエアライン。海運会社を基盤に1989年、台湾初の民間国際航空会社として設立された。2024年3月現在で世界60都市以上に就航する。航空業界の格付け会社スカイトラックス(本社・ロンドン)が認定する「世界の5つ星航空会社」10社のうちの1社で、2024年にも9年連続で選ばれた。日本路線は2024年12月、就航30周年を迎える。2024年3月現在、札幌・仙台・成田・羽田・小松・関空・松山・福岡・沖縄の9空港に就航。2レターコードはBR。英語では「イー・ヴィ・エー(EVA)」と発音される。航空連合スターアライアンスの一員。